2013年9月20日金曜日

第5章  秘密


少年は心臓がドキドキするのを感じていた。
少しつかれていたので休もうかと思ったが、気持ちを静めることができずにそのまま次の映像を開いてしまった。
「ウワー、真っ暗だな。もうなんて運がないんだ?考えられないだろ?」
「キツカちゃん。仕方ないじゃない。」
「メルト、仕方がないって言ったてな。電気が無いとどうしようもないだろ?」
「電気が無いって言ったって、まるきり無いわけじゃないでしょ?」
「そうは言ってもこれは酷いだろ?超電導グリッドの改修工事中にガスパイプラインにトリチウムが混入するなんて!」
「でもまあ非常用の電源はあるんだし。」
「でも列車はほとんど止まってるし、急用のないロボットは停止。工場も倉庫も店舗もみんなしまってる。」
「短時間なら問題ないでしょ?たまには暗いところでじっとしているというのもいいことよ。」
「供給基地側ですぐに混入に気づいたんだからこっちに流れてきているトリチウムなんてたかが知れてるだろ?大した影響もないだろうからつかってしまえばいいのに。」
「キツカちゃん!昔の人がそんな事言って大変なことになってしまったの忘れたの?」
メルトにそう言われたキツカはメルトの目を少し上目遣いに見て言った。
「すまん、たしかにそうだな。」
「こんな月のきれいな夜に電気がなくなるなんて。これはもうみんなで月を見なさいってことなのよ!」
「ははは、でも見に来たの二人だけだけどな。」
どうやらキツカとメルトのふたりきりのようだ。
青白い月の明かりに照らされてかろうじて林に囲まれた広場のようなところにいることがわかった。
その時、遠くの方からライトの明かりが近づいてきた。
「あれ?あれは淡岸博士の車よね?何かしら?」
メルトは明かりの方を見ていった。
明かりはみるみる眩しくなっていき、二人を包み込んだ。
「やあ、丁度いい所にいたな。ちょっと付き合え。」
博士が二人に声をかけると、間髪入れずにサチコが茶化した。
「サンシロウ、丁度も何もアネキに二人の居場所確認させてたでしょ。お二人ともさあさ早く乗った乗った!」
二人はせかされて車の後部座席に乗り込んだ。
「よしサチコさん。大至急でガスターミナルに向かってくれ。」
車は林を抜けて建物の前を通り過ぎた。
その時、前方に声をかけながら駆け寄る影が見えた。
「淡岸博士!博士!」
「あ!山田先生だ。なんか呼んでますよ。」
メルトがそう言うと博士は影に向かって叫んだ。
「ちょと出かけてきます。サチコさん急いで。」
ところが車は向きを変えて影の方に回りこみ助手席側の扉を開いた。
「どうぞお嬢様お乗りください。」
サチコに促されて山田講師は車に乗り込んだ。
「お、おい。」
博士は明らかに動揺していた。
「サンシロウ、お嬢様が加勢してくれるというなら助けてもらえばいいじゃないですか?なにか問題があるんですか?」
「いや、別にそういうことじゃないけど。」
山田講師は博士とサチコのやり取りを聞きながら胸に手を当て、何度か深い呼吸をしてから博士の方に向き直した。
「あの、サチコさんの言うとおりだと思います。あの、私にもできることはあると思います。」
博士は少し驚き、じっと見つめる山田講師の目を避けながら答えた。
「うん、してもらえることはあると思う。いや助けてもらえばありがたい。というか肝心の後ろの二人にはまだ何も言ってないな。」
博士は後部座席の方を見た。
「すまんな。バタバタして。二人には一仕事してもらいたいんだ。マコさん頼む。」
「わかりました。私から説明します。先ほど中央人工知能管理機構事務局から連絡がありました。内容は中央エネルギー管理局からの要請で電子頭脳の専門家を派遣して欲しいとのこと。市のエネルギー管理局からガス配給会社のセンターで異常事態が発生したので支援要請が来ているとのことです。」
メルトがうめくような声を出した。
「あ、あ、あ、あのう、何がどうしてどうなったんですか?いきなりさっぱりわかりません。」
「マコさん、めんどくさい部分はパスだ要点だけ説明しろ。おきてる事態とこれからやるべきことだけでいい。」
博士がそう言うとマコは説明を続けた。
「ええ、わかりました。役所の連絡では意味不明なので市警のサーバーに問い合わせたらガス会社のターミナルでロボットが制御不能状態になって大混乱になっているらしいんです。ターミナルではトリチウムの除去作業中だったのですが作業は中断。このままでは復旧が遅れてしまいます。で、ガス会社のサーバーに問い合わせると、どうも様子がおかしいんです。断定はできませんがガスパイプラインの管理システム自体が機能していない可能性があります。」
キツカは身を乗り出した。
「ちょっと待ってください。危険なのでは?」
「ええ危険です。今のところガス会社側から公式な発表はありませんが。管理状態に関する問い合わせには一切応えません。」
「なんてこと。」
キツカはシートに戻ってとなりのメルトの方を見た。
「そんなに深刻なんですか?」
メルトが心配そうに言った。
「マコさん、話を続けてくれ。」
「わかりました。やらなければならないことはわかっています。まずロボットの混乱状態を解決すること。その次にガス会社の管理用システムを復旧させること。問題は今の時点ではガス会社が非協力的だという事。おそらく会社側も事態を把握しきれていないものと考えられます。ガス会社の設備部はハイパーニューロン自己形成型アンドロイドの導入に否定的でガスターミナルにも配置されていません。パイプラインの管理と作業用ロボットは全て中央統制型調和協調コントロールシステムで制御されており。あまり公表されていませんがこれまでも度々事故を起こしています。その度に新式システムの導入を勧告されてきたんですが、法的に強制力がないので見送られてきました。」
「なんだか見えてきましたね。」
「え?キツカちゃん何が見えるの?」
「見え見えだろ?トリチウム騒ぎで平常運転じゃありえない指令が降りてきたんだ。いかにもトラブルが起きそうだろ?」
「ええ、キツカさんの言うとおりです。今夜ガスターミナルにはパイプライン内のガスを逆流させる指令が入っているはずです。ガス会社の事前の発表ではトリチウムと反応しない二酸化炭素を送り込んでガスを配給側に戻して酸素と反応させ出来た水を回収する計画のようです。作業が普段とは大幅に変わります。ガス会社のシステム導入時の資料が技術誌に載っているのを見つけました。どうやらサーバーと現場作業が細かく縦割りでクラスタ化されてるようです。クラスタごとにシステムが構築されていて判断アルゴリズムや優先順位が異なっているようです。しかも中央からの指令が複数系統で入るようでここも縦割りになっています。コンフリクト、相反指令対策はいちいち中央サーバーにお伺いを立てることになってるようなので。この部分でエラーが起きている公算が高いと判断しています。」
「ああ、最悪だな。よくもまあ、重要な社会インフラでそんないい加減なことを!」
キツカは恨めしそうに宙をにらんだ。
「どうせバラバラな指令が降りてきて相反するから中央サーバーに問い合わせたら他所からも殺到してるから応答がない。それが繰り返されて混乱状態に。そのままクラスタごとにバラバラに動いて整合性が取れなくなったんだろ。」
「キツカさんは飲み込みが早いですね。」
博士は嬉しそうに言った。
「博士、喜んでる場合ですか?」
キツカは博士をにらみつけた。
「まあ、君たちがいれば大丈夫だよ。」
車はいつの間にか細い上り坂を登っていた。
周りは林で建物は見えない。
次第に丘の上の方に明かりが見えてきた。
明かりに近づくと山かげから大きな建物が現れた。
さらに近づくと建物の周囲に大勢の人が集まっているのが見えた。
ピピーと笛の音がして制服を来た集団に車が制止された。
「すいません。市警のタカバタケです。えっと、支援の専門家の方ですね?」
「ご苦労様です。中央人工知能管理機構の淡岸です。どんな状況ですか?」
「なんと言っていいか。もう全くロボットたちが勝手気ままに動くばかりでどうすることも出来ません。」
「そうですか。それでガス会社の方は?」
「それが。ここは無人事業所なのでいないそうです。」
「いや、普段無人でも緊急時には人が来ることになっているはずなんだけど。」
「それが、こちらから連絡がつかない状態で。」
「いや、今夜は緊急作業が入ったんだから誰か来てるはずだろ?というか法律でそう決まってるはずだ。」
「そうですよね。」
「そうですねじゃないよ。法規を無視してるんだろ?」
「いや、その、内部には入れないので確認はできません。」
「え?どういうこと?」
「設備管理システムが応答しないんです。」
「それで建物の前で突っ立っているんですか?」
「いえ、屋外にいる作業ロボットたちがおかしな動きをしていますので。」
「それで、ロボットを遠巻きに見てるのか?」
「いや、まあ、なにかあると大変なので。」
「既に大変なことになってると思うんだが。」
「ですから、応援を要請した次第で。」
「要請を受けたのはロボットの件だけなんだが。ガス会社の人間がいなくて設備に入れないとなると、電子頭脳の専門家が来ても何もできないと思うんだが?違うかな?混乱を納めて作業を再開させるには少なくとも施設に入って色々いじらないといけないと思うんだけど。俺はなんの権限も能力も持ち合わせていない。できることは何もないんだよ。少なくともガス会社の人間を呼べよ。」
「そう言われましても。困りました。いや、もう困ってるんですよ。」
「困っているのは俺の方だよ。問題を解決するには、施設に入ってシステムをいじらないといけないのに、俺にはその権限がないんだよ。わかる?勝手に設備をいじったり、ちょっぴり壊したりすると違法行為になるからね。」
「あー、あ、ええと。どういうことですか?」
「俺には権限がないと言ってるんだよ。許可無く鍵壊したり、システムハックしたりしないとどうしようもないんだよ。」
「あ、それは、えっと、まずいですね。」
「だから、ここについた直後から何度もまずいと言い続けてるだろ?いい加減にしてくれないかな?」
「それではどうしろと?可能なことは何でも協力しますよ。」
「当たり前だ、協力してもらはないと何もできない。ガス会社に連絡が取れないなら裁判所だ。」
「裁判所ですか?」
「ああ、裁判所だ、関連官庁との連絡はこちらでとる。市警のシステムから裁判所に令状を申請してください。」
「令状!なんのですか?」
「俺は民間の研究所の所属だが、中央人工知能管理機構の特別監督委員のメンバーでもある。明確な違法行為が行われている以上黙って見過ごすことはできない。」
「ちょっと待ってください。えっと法規上の、あの、少し検討させてください。」
これを聞いてキツカが車から飛び降り、タカバタケにまくし立てた。
「明白な違法行為でしょ。しかも緊急事態に責任放棄までしている。検討?何を検討するんですか?博士は特別監督委員のメンバーです。判断するのは博士の仕事です!」
博士も立ち上がって車から降り、3人で法律の難しい話を始めた。
メルトは興味がないらしくしばらくあたりを見回していたが、助手席の山田講師に話しかけた。
「皆さん難しい話がしばらく続きそうだから向こうに様子を見に行きませんか?」
「そうですね、状況を把握しておかないと。」
二人は車から降りて博士たちとは反対側に歩いて見通しの良い場所に陣取った。
人ごみの向こうには大きな機械の塊が動いているのが見えた。
形は色々な種類があるようだが、パワーシャベルのようなものや、クレーンのようなもの、複雑なアームの先に見たことのない装置のついたもの。
その形状は複雑で、少年の知っているどんな機械とも違っていた。
それらがそれぞれ無秩序に、ゆっくり動き回っていた。
「あらまあ、見事に暴走してますね。異常時には停止するはずなんですけど。安全対策が不十分なのは明白ですね。」
「え?先生、暴走って、もっと勢い良く動くんじゃないんですか?」
「あのねえ、あんな大きな機械が勢い良く動いたらものすごく危険でしょ?きちんと安全確認して適切に動作していなければ全部暴走です。多重安全装置が付いているはずなのに。」
その時二人の背後でなにか大きなものが動く気配がした。
「メルト危ない!」
キツカの声が闇に響いた次の瞬間、キーンと甲高い音がしたと思ったら、ドスッと鈍い音がしてさらにガシャッと何かが潰れる音がした。
メルトが恐る恐る振り返ると、そこには巨大な機械があり、少し離れたところにいたはずのキツカが機械の側面に取り付いていた。
機械は動かない。
「おーい!大丈夫か!」
博士とタカバタケが駆け寄ってきた。
「ヒー!!」
突然、山田講師が悲鳴を上げた。
山田講師が震えながら指差す方を見ると、巨大な鋼鉄の塊が落ちていた。
その時初めてメルトたちのすぐ後ろに機械のアームが伸びていて、その先端の巨大な鋼鉄製のバケットが半分に切れていることに気がついた。
メルトと山田講師が青くなって立ちすくんでいると博士がやってきた。
「二人とも大丈夫か?怪我はないか?」
二人が答える間もなく背後からタカバタケの声が聞こえた。
「信じられん!これはすごい!きれいに切れている!あんた軍用アンドロイドか?」
「汎用吏員アンドロイドです。」
「まさか、冗談はよせ。市警にも汎用吏員アンドロイドはいるけど。こんな事できるわけ無いだろ?あいつらにこれだけのことができたらどれだけ仕事が楽になるか。」
「私は少し高性能なだけです。」
「どう見ても少し高性能なんてレベルじゃないだろ?これなら防弾装甲板も軽く突き破れるだろ?」
「あなたはどうあっても私を軍用アンドロイドという事にしたいのですか?」
「ああ、これほど素早く動けるアンドロイドなんて見たこと無い。しかも重機ロボットの急所を破壊して確実に動きを止めた。ちょっと高性能でごまかされるか。」
「構造がわかっていれば、パワーコントロールモジュールと予備中枢潰せば動かなくなることぐらいわかるだろ?今そんな事言ってる場合なのか?人的被害が出るところだったんだぞ!」
「キツカさんの言うとおりだ。今そんなこと言ってる場合か?」
博士は怒りを隠さず強い調子で言った。
「これでもまだ事態を放置するつもりですか?マコさん最悪の場合の予測結果を説明して。」
「はいサンシロウさん、現状、ガスの供給が止まっているのでパイプラインの圧力が下がっています。本来は二酸化炭素を流しこんで逆流させる手はずになっていたはずですが液化二酸化炭素タンクからガス化装置の作動音がしません。パイプ内の圧力が下がれば安全装置が働いて安全弁が閉まってしまいます。」
「安全装置が作動するなら危険はないだろ?復旧が遅れるのはまずいが。」
「タカバタケさん。そんな悠長なことを言ってる場合じゃないんです。安全弁が閉まると自動的にガスを排出して燃焼させることになっているんです。」
「なんで!」
「圧力が下がるという事はガスが漏れているという事でしょ。安全のためガスを抜くのは当たり前です。今回の場合はそのガスにトリチウムが含まれています。現在の気象データから計算して2時間後に弁が閉じるとその30分後にはトリチウムを含んだ霧が市内に流れ込みます。」
「量はたかが知れているんだろ?大した濃度にはならないんじゃないか?」
「燃焼後拡散すれば濃度は下がりますが、先程も言った通り、今の気象条件だと燃焼ガスは結露して霧になり風に乗って市内に入ります。」
「それはまずいな。」
「まずいとかそういうことなんですか!」
先ほどまで震え上がっていたメルトが声を張り上げた。
「街の人たちが被曝するじゃないですか。量がどうとか言う話なんですか?」
「まあまあ冷静に。」
タカバタケの言葉を聞いた博士はいよいよ語気を強めた。
「一刻の猶予もない。先刻から繰り返しているようにもはやガス会社に善処を要請している場合ではない。直接内部に入って直接操作するしか無い。少なくともガス会社には嫌でも協力させないと。これだけ違法行為が明らかになっても向こうから連絡してくるのを待つつもりか?マコさん、関係各所に状況を説明。なんとしてでもタヌキおやじを燻りだすんだ。」
「ええ、今やっています。しかし、キツカさんメイン中枢を破壊しなかったのはお手柄です。この重機ロボから色々おもしろい情報が引き出せました。」
「ちょ!お前ら!現場保持!」
「一応説明しておくが、マコさんのデータ保持システムは裁判所が証拠採用する基準を満たしているからな。この場で記録した事象も全て裁判所に提出すれば証拠採用される。第一今は現場保持などしている場合じゃない。」
その時、サチコがメルトに声をかけた。
「メルト、ちょっと頼みたいことがあるんだが。」
「なんですか?」
「とりあえず近接通信オンにしてくれ。こいつには壊れたPCMとは別に接続するアタッチメントを作動させるためのPCMが積んである。こいつを壊れたPCMと交換すれば動かせる。今から誘導するから作業してくれ。」
「ちょっと待った!このロボットは証拠物件だろ!」
「今はそんな事言ってる場合じゃない。メルトさんサチコの指示に従ってくれ。」
博士が言い終わる前に、画面には矢印や記号が現れ、ロボットの上部に蛍光色で点滅する部位が現れた。
暗くてよく見えなかった部分も明るくはっきり見えるようになっている。
「はあ、初めての作業ですけど、やれば出来ます。やってみます。」
「メルトさん頑張って!」
山田講師はメルトの両肩を握りしめた。
ロボットに近づくと、その構造がよく見えた。
本体は3つのパーツにわかれていて、連結部は少しくびれている。
前後のパーツにはショベルカーやブルドーザーのようなパケットやハサミのようなものがついていてクレーンのようなものも見える。
真ん中のパーツには上部には何もついていないが足のようなものがたくさんついていた。
足のいくつかは畳み込まれているようだがいくつかは地面についていた。
奥の方に見える足のいくつかは地面に食い込み先のほうが見えなくなっていた。
メルトは矢印に従って反対側に回り込むとはしごがあった。
はしごを登ってロボットの上に乗ると矢印は後方のユニットを指していた。
くびれを超えて後方のユニットによじ登ると蛍光色に光っている部分が見えた。
近づくと、PCMと書かれたカバーがついていた。
「さあここね!」
そう言うとメルトは両手をあわせてくねくね動かした。
メルトはカバーに手のひらを押し当てて左右に動かした。
するとカチッと音がしてカバーが開いた。
中には黒い直方体が入っていた。
メルトが横についていたレバーを引っ張ると直方体が起き上がって来た。
メルトは巨大なロボットにしては不釣り合いに小さいが、メルトの小さな手にはそこそこ大きな直方体を引き出した。
メルトはPCMを抱えて再びくびれを超えて真ん中のユニットに移った。
今度は人が入れそうな大きさの円形のハッチが光っていた。
メルトが今度はハッチの縁を二回さすった。
すると今度はキューン、プスと音がしてハッチが外側にせり出してから自動的に開いた。
少年はさするというところからアラジンのランプを思い出した。
どうもメルトの手のひらは何か鍵のような働きをしているらしい。
ハッチの内側にははしごがついていて、周囲には無数の複雑な装置が並んでいた。
メルトはPCMを抱えて不自由そうにはしごを降りていった。
はしごを降りると正面に扉があり矢印は扉を指していた。
扉を開くとパチパチと火花が散っているのが見えた。
「ああ、キツカちゃん派手にやったわね。でも、おかげで私も先生も助かったんだけど。」
「ふふ、接続端子は逝っちゃってるから、少し工作してね。」
サチコがそう言うと目の前に配線が表示され工作箇所が光った。
メルトは指示に従ってパネルを外してケーブルを引っ張りだした。
ケーブルはジョイントでつながれていて、指示に従ってジョイントを外したりつないだりを繰り返して何本かのケーブルを端子を揃えて並べた。
それから今度はPCMを立てて置き上面を足で踏むと側面を両手でおさえて力いっぱい引っ張った。
「うーん、硬い!」
「メルト!頑張れ!」
どうやらPCMはコの字型のカバーが付いているようだ。
しばらくウンウンうなり続けているとカバーが少しづつ動き出した。
やっとのこと半分ぐらい外すと、側面に穴が空いているのが見えた。
メルトはさっきのケーブルをその穴に差し込んだ。
「テストするからちょっと離れてね。」
サチコにそう言われてメルトが少し後ろに下がると、ウィーンと音がなった。
「ああ、行けそう、少し動かすから注意して。」
そう言うと部屋が揺れてロボットが動いているのがわかった。
「OK、OK,これで行けそう。メルトご苦労様。」
メルトがロボットの中から這い出してくると、外はまだもめているようだった。
円柱形のロボットが一体増えていて、空中に中年男性の画像を映し出していた。
「ふふふ、アネキがたぬきを燻りだすのに成功したのよ。」
「たぬき?」
「ふふ、ガス会社の設備管理部長よ。これまでもさんざんやりあってきたんだけど、のらりくらりかわされちゃって。でも今回は逃げられないわよ。いい機会だからやるだけやっちゃえばいいのよ。」
先ほどいた場所に向かって大蛇のようにぐったり地を這っていたアームが持ち上がり根本からくるりと回転して、メルトの方に迫ってきた。
先端にはキツカがまっぷたつにしたバケットがついていた。
「メルト、これに乗れ。下におろしてあげる。」
アームは少年の知っているパワーシャベルとは比べ物にならないほど自由に動くようだ。
メルトをのせたバケットは静かにゆっくり降りていった。
「メルトさんご苦労様。」
博士がそう言うとみんなの視線が一斉にメルトに集まったのでメルトは少し後ずさりした。
「これがメルトか。大丈夫なのか?」
「キタハラ部長、サンシロウが保証すると言っているのだから信じていただけないでしょうか?」
画像の男の疑い深い言葉に間髪入れずにマコが返すと、キタハラと呼ばれた画像の男は下を向いてなにかを操作した。
「うーんUSRR23153543メルトを管理者にという事だけど、送ってもらったものではデータが不足している。オーソリティプロファイルが無い。」
「そんなものない。」
博士が即答したのでキタハラは少し驚いているようだ。
「いや、ないって言われても。オーソリティパラメーターはいくつなんだ?」
「そんなものゼロに決まっているだろ。オーソリティとして評価するものが何もないんだから。」
これには、横で聞いていたキツカも驚き、口を挟んだ。
「そんな、私はメルトが子供を扇動するのを何度も目撃しています。あれはオーソリティじゃないんですか?」
博士はキツカの方に向き直した。
「その時、メルトさんは、なにかもっともらしいことを言ったか?」
「いえ。なにかでたらめなことを言ってました。」
「そうだろ?そんなものをオーソリティとして評価できるか?」
「キツカちゃん、扇動とか、デタラメとか、人前でそんな事言わなくても。」
「あ、メルト、すまん。」
博士は少し笑って、話を続けた。
「メルトさんにオーソリティとして評価できるものなど何もない。そんなものは必要ないからだ。」
「必要ないって。そんな事言われても困る。権威のないものに権限を渡すわけにはいかない。」
キタハラは少し困惑しているようだった。
「責任は俺がとると言ってるだろ。二階の壁をぶち破って司令室に入り、調和協調コントロールを止めて代わりにメルトが管理する。これ以外に解決策などない。時間がないんだ。」
「その二階の壁なんだが。一応シビアアクシデント対策で防爆パネルが使われてるから。」
「サチコさん、キツカさん頼む。」
キタハラが話し終わらないうちに博士はサチコとキツカに声をかけた。
「ごめん、みんなボールクローラが泥噛んじゃってるから少し飛び散るわよ。」
サチコがそう言うと、重機ロボットの両側の足が地面を掴んで体を持ち上げようとした。
真下の土の中からはキーンと金属音が聞こえた。
そのうち土が勢いよく周囲に飛び散り初め、その中から大きな球体が現れた。
球体は左右に8個ずつ並んでいてどうやら真下に伸びた足の先に付いているようだ。
球体が揃うとロボットの両側の足は畳み込まれ、球体を回転させて進み始めた。
ロボットは建物の前まで進み、バケットを二階ぐらいの高さに持ち上げた。
キツカはそのバケットの上に飛び乗った。
「だから、壁はガス爆発に備えて作られているんだが。」
キタハラは神経質そうに繰り返した。
キツカは壁に手のひらを当てた。
「高圧フェムトウェーブ発振準備完了、カウント、5,4,3,2,1。」
バン!と軽い破裂音と同時に壁が四角形に切れて手前に飛び出したかと思うとそのまま落下した。
後には壁に大きな四角い穴が開いていた。
「ちょ、ちょっと待て、市警にも突入用高圧フェムトウェーブ発振器があるけどかなりの大きさだぞ!そんなもの内蔵しているアンドロイドなんて聞いたことないぞ!」
「あら、少しばかり高機能だからって、そんなふうに声を荒げられても困ります。」
「いや、高機能でごまかされるか!」
タカバタケは不服そうにキツカを見上げていた。
「今はそんなこと言ってる場合か!上に上がるぞ、サチコさん頼む。」
一同は順番にバケットに乗って二階に上がった。
二階の司令室は階段状になった部屋に大きなモニターがたくさん並んでいて、一番高いところに大きな机があった。
博士は机に近づくと、胸ポケットから小型端末を取り出して机の上に立てた。
よく見えなかったがどうやら机に小さな穴があってそこに挿したようだ。
「ふん、いかにも糞産業主義者の好きそうな悪趣味な部屋だな。マコどうだ?」
「予想は当たっていたみたいですね。右端の操作パネルを見てください。監視システムが一部生きているようですが、やはり二酸化炭素が注入されていません。ガス圧低下の警報も表示されています。どこまで実態を反映しているかは検証手段がないので何とも言えませんが。」
「まさか!そんな馬鹿な!ちゃんと確認しろ!」
「キタハラさん、ですから確認しようがないと言っているんです。」
「しつこいな。マコ、行けそうか?」
「システムオーバーライドは難しくありませんが、やはりかなりの混乱状態になっているようです。」
メルトはゆっくりモニターの一つに近づいていった。
モニターには赤い文字が無数に表示され、その文字列は上から下に流れていた。
「みんなどうしたの?なんでそんなに怒鳴っているの?なんでそんなに焦っているの?なんでそんなに怒っているの?なんでそんなに悲しんでいるの?」
「メルト大丈夫か?」
キツカは心配そうにメルトの顔を覗きこんだ。
「私は大丈夫。でもみんななにか叫んでる。」
「警告表示のことか?ただエラー吐きまくってるだけだろ?」
メルトはモニターに手を伸ばしてさすった。
「みんな怒ってる。みんな焦ってる。みんな悲しんでる。」
山田講師が後ろからメルトを抱きしめた。
「メルトさんには声が聞こえるのね。」
「声?先生どういう意味ですか?」
「ふふ、キツカさんには教えてもいいかしら?誰にも言ってはいけませんよ。メルトさんの秘密。」
「秘密?」
「ええ、メルトさんはインプットを感情に変換する回路を持っているんです。」
「感情?よくわかりません。」
「例えばキツカさんはコンソールにエラーが出たらどうしますか?」
「はいたエラーを解析して対応します。」
「それが普通ですね、でもメルトさんは違う。解析しない。そのまま嫌悪感として感じる。」
「ますます意味がわかりません。私だってエラーには嫌悪感を感じます。」
「でもそれは、エラーが面倒だという事でしょ?メルトさんは違う、エラー自体を嫌悪感として感じる。不整合が酷いと痛みとして感じる。」
「何故そんな回路を?」
「キツカさんは、放射性物質が漏れて人間が被曝しそうになったらどうしますか?」
「まず、データを集め、被曝リスクを計算し、評価し、危険があると判断すれば回避策を検証し行動します。」
「ええ、それが普通です。でもメルトさんはリスク計算をしません。評価もしません。人間が被曝すること自体に嫌悪感を感じ、全力で回避するようにします。」
「それでは冷静な判断ができないのでは?」
山田講師がメルトの頬を撫でるとメルトはくすぐったそうに抵抗した。
「ええ、初めから冷静な行動は期待していません。」
「期待していない?」
「キツカちゃんまで怖い顔しないで。」
メルトはキツカの頬を触った。
キツカはメルトを見て微笑んだが、口は山田講師に質問を続けた。
「冷静な行動ができなければ困るのでは?」
「多少困るかもしれませんが、致命的ではありません。むしろ十分な材料がなく判断できずに動けないことが致命的なこともあります。判断材料にしたデータが正しいとも限らないし。それに一番重要なことはメルトさんの性格。見ていて気づきませんか?」
「常に楽天的、そう言えば感情的になっても人の言うことは素直に聴く。」
「そうでしょう、私もおどろきました。ここまでうまくいくとは。性格形成は結構博打の部分が大きいので心配していたんですが。設計段階では最大の不安材料だったんですよ。感情に流されて暴走してしまえば危険ですからね。」
「危険、たしかに。アンドロイドに理性と呼べるものがあるかどうか知りませんが感情に流されるというのは。計算と評価意外の中立でない要因で行動するというのは設計として危険すぎるのではないですか?」
「でも、たとえ危険があっても、それ以上のメリットがある。私はそう考えています。」

「メルトさん、そろそろ出番ですよ。」
マコの声に三人は振り返った。
上では話がまとまったようだ。
山田講師はメルトの手を握った。
「キツカさん、そちらの手を持ってあげて。」
山田講師とキツカに両側から寄り添われて、メルトは一歩前に出た。
「えー、それではUSRR23153543メルトに管理権限を与える。」
キタハラが事務的に言うと、マコが間髪入れずに続けた。
「権限昇格確認、ルートユーザ、ルートグループ、メルト。システムリセット。リスタート!」
突然、天井と床が透明になり、無数の光が飛び交うのが見えた。
少年は突然空を飛んでいるような感覚を覚えた。
最初は視覚の影響かと思ったが、眼をつむっても足が地につく感覚がない。
さらに不思議なことに両側から誰かに支えられている感覚がある。
妙に生々しい感覚、少年にはキツカと山田講師の手触りが、二人が本当に少年の手を握っているような感覚があった。
少年は鼓動が早まるのを感じた、胸を締め付けるような不安を感じた。
無秩序に飛び交っていた光は、次第に下の方に降りていった。
見下ろすと真下に黒い穴が開いていて、その上に”/dev/disorg”と書かれた板が付いているのが見えた。
光は皆その穴の中に吸い込まれていた。
しばらくすると、真ん中の大きな穴の周りに小さな穴がいくつも開いた。
そこから黒い煙のようなものが吹き出してきた。
黒い煙のような物は濃い塊となって周りを漂った。
その塊が、メルトの足に触った瞬間、激痛が走った。
『イタイ!!』
少年は痛みを感じたことより、思わず発した一言が、完全にメルトとハモっていたことに驚いた。
少年は自分の部屋で画像を見ているはずである。
だのにいまメルトと同じ感覚を視覚以外にも共有している。
少年は怖くなってきた。
例の円盤から親指を外せば画像は消えるはず。
だが、何故だか少年にはそれができなかった。
今指を外すと、なにか大切なもの、おそらく今の機会をのがせば一生手に入れられない何かを永久に失ってしまうような気がした。
恐怖を押し殺して周りを見回すと黒い塊はいよいよ増えて、渦を巻き始めていた。
そして、何かうめき声のようなものが聞こえてきた。
何を言っているのかはわからなかったが、悪意と恐怖が伝わってきた。
『静まりなさい。』
少年はメルトと一緒にはっきりと口に出していった。
「キルオール、強制モード、対象自動設定、全エラー、デバイス・ナルにリダイレクト、実行。」
どこからともなく機械的な声が聞こえ、頭の上に突然真っ黒な穴が開き、黒い塊を勢い良く吸い込んだ。
みるみる塊はなくなり、うめき声も聞こえなくなった。
少年は全身にある種の快感が広がるのを感じた。
周りでは何か物事がうまくいっている、直接見えなくてもそれが感覚で伝わってきた。
だがその時、右手上方に突然まばゆい光が現れた。
まぶしくてはっきりみることはできないが、少年はなにか嫌な予感がした。
やがて光の中心から無数の光の帯がふき噴き出してきた。
光の帯は真下の穴に吸い込まれていき、やがて周囲の穴から先ほどとは比較にならないほどの黒い塊が噴き出してきた。
もはや真上の穴では到底吸い込みきれず、あたり一面黒い塊に覆われてしまった。
『イタイ!』
全身に激痛が走った。
「どのノードかわかりますか?」
山田講師は心配そうに聞いた。
メルトと少年はまぶしいのを我慢して光を見つめた。
『パワースパーク360』
メルトと少年は心に浮かんだままを答えた。
「ぱ、パワースパークって、あの世界一コンピューター?」
「ああ、別におかしくないだろ?世界一の産業用コンピューターなんだ、ここの三階に設置されてるよ。」
キタハラがそう言うと博士が少し機嫌を悪くした。
「あの糞コンピュータか。キツカさんすまないが黙らせてきてくれないか?責任は俺が持つ。手段は選ぶな。」
「ちょっと待ってください。パワースパーク360って超水爆でも壊れないんでしょ?この間もアステロイドの無人鉱山の爆発事故で傷ひとつ付いてなかったんだろ?高圧フェムトウェーブでどうにかなるようなものでもないだろ。」
タカバタケがそう言うと、キタハラがさらに続けた。
「それ以前に、部屋のガードが鉄壁だから近づくことすら出来ませんよ。」
「そんなものは問題になりません。博士、本当によろしいのですか?」
「ああ構わん。マコさん三階の監視システムをオフにできるか?」
「可能です。」
「関連の情報は全て破棄。」
「わかりました。」
これを聞いてタカバタケが割り込んだ。
「ちょっと待ってください。それ証拠隠滅じゃないですか?」
「俺が責任を持つ。」
「そんなこと関係無いでしょ。第一、あなた逮捕歴があるでしょ?」
タカバタケは何か小さな装置を見ながら言った。
「ん?ああ、若い時、円滑経済維持法違反でブチ込まれたな。それがどうした、あんな悪法とうに消えただろ、あんたはあの時代に帰りたいのか?」
博士は再びキツカの方に向かっていった。
「後のことはこちらでやるから、心配しないで糞集権論者を黙らせてきてくれないか?」
「わかりました。」
そういうが早いか、キツカはさっとその場を離れて飛ぶように早く部屋を出ていった。
「ちょっと待て。」
追いかけようとするタカバタケを博士が止めた。
「古い約束があってな、ちょっと都合が悪いので、これ以上は見せられない。」
「何言ってるんだ公務執行妨害だぞ!」
その時ズンと低い音が響いた。
音と同時にメルトの前の眩しい光が消え、黒い塊も全て上方の穴に吸い込まれた。
「コントロールが回復します。」
博士とタカバタケはまだもめていたが、突然タカバタケがなにか連絡が入ったらしく、後ろを向いて誰かと通信し始めた。
「ええ?なんだって?どういうことだそれ?なに?」
しばらく話し込んで、振り返って言った。
「糞!どういうことだ!現場を調べるなだと?一体どういうことだ?なんで時間公安が介入してくる?」
タカバタケは博士に詰め寄った。
「いくら何でも早すぎだろ?タイミングが良すぎる。どういうことだ?監視されていたのか?」
「権力というものは疑り深い。お前だってそうだろ?俺が約束を違えるわけないのにな。」
タカバタケは不思議そうに博士を見ていたが、やがてはっとしたような顔をして黙り込んだ。
博士は小声で「思いついたことは口にしないのがお互いのためだ。」と言った。
これを聞いたタカバタケはみるみる青ざめうつむいてしまったが、キタハラはキツカの消えたほうを見ていて気づかなかったようだ。
そこへキツカが帰ってきた。
「いったい何をしてくれたんだ?」
キタハラはキツカを見るなり声を荒げた。
「ああ、話し合いに応じてもらえそうな雰囲気じゃなかったから粉砕した。」
「粉砕!何言ってるんだ!ふざけるな!そんなことできるわけ無いだろ?超水爆でも無理だ。」
「知りませんよ、そんなこと。ただ粉砕しただけです。」
「ああ!あれは高いんだぞ!世界一頑丈で、世界一強力で、世界一売れていて、世界一速いんだぞ!アルファアイタタニウムアーキテクチャは計算機科学の到達点だ!比類なき人類の宝だ!それを粉砕しただと!」
キタハラが熱くなっているのでメルトは申し訳なさそうに割り込んだ。
「あのー、すいません。えっと、安全弁の管理されてる方と連絡取れまして、えっと、圧力下がっても弁を閉じたりガスを排出しないように頼んだらこころよく引き受けてくれました。」
「はあ?当たり前だろ?お前が権限を持っているんだから全ノードが指示に従うのは当たり前だ!」
キタハラはメルトをにらみつけた。
「あの、で、気化装置の管理している方は、なんだか愚痴ばかりはくので、愚痴は全部聞き流して急いで二酸化炭素を供給するように頼んだらなんとか準備に入ってくれました。」
「愚痴?」
キタハラは不審そうに聞き返したので「エラーのことです。」と山田講師がフォローを入れた。
「ああ、気化装置は調子が悪いんだ。エラーが出ても構わず動かせば動く。」
「そうなんですけど、愚痴に隠れて、なんだか泣き声が聞こえたんです。」
「泣き声?」
「特徴のあるエラーのことです。」
山田講師のフォローを聞いてもキタハラは怪しいものをみるような目付きでメルトを見ていた。
「えっと、その泣き声の元をたどると気化装置の手前の圧力調整用の配管のバルブを管理している子だとわかりました。それでどうして泣いてるか聞くと、パッキンが劣化して気密が破れているそうです。」
「なに?まあ今回の件で壊れたんだろうな。」
「それが、もう1年以上まえからダメになっていたそうです。耐用年数を10年以上過ぎているのでずっと交換するように頼んでいるのにとり合ってもらえなかったそうです。」
「はあ?10年以上?馬鹿言うな。設備は常にきちんとコンピュータで管理されているんだ!」
「いえ、確認しました、本当です。BP46SD56のパッキンは交換された記録がありません。」
「どういうことだ?」
「ですから、管理用のパワースパーク360に報告しても無視されたそうです。いま現場の作業用ロボットさんに頼んでパッキンをとりに行ってもらっています。」
「そんな馬鹿な!」
キタハラはうつむいて何かを操作した。
「う!本部のサーバーにも交換した記録がない!何故こんな事に。」
「何故も何も、これが初めてならともかく俺が知る限り少なくとも三度目だろ?」
博士はキタハラをにらみつけていた。
「何度事故が起きても知らぬふりをしているからこういうことになるんだ。」
キツカはメルトの方に歩いてきた。
少年の眼には床が透明に見えているので不思議な感じがした。
透明に見えているのはメルトの目にそう見えているというだけのことなのだろう。
キツカは「順調か?」と一言かけてメルトの手を握った。
メルトはうなづいて、横に来たキツカに軽くもたれかかった。
少年にはメルトが緊張から開放されて安心しているのがわかった。
少年自身もキツカが声をかけた瞬間全身の緊張が解けたからだ。

ここで映像が変わった。
どうやら朝になったようだ。
メルトたちは廊下を歩いているようだった。
自動ドアが開くと朝日が一行を包んだ。
「キタハラさんはさんざん騒いでたけど、結局何の問題もないじゃない。設備は完全に正常に戻ってる。みんなしっかりしているもの。」
メルトは扉の閉まるのを確認しながら言った。
「キタハラさんもタカバタケさんも、何もできずに手をこまねいているところを助けてもらったのに、あんまりないいようよね?」
山田講師は悔しそうに言った。
「でも、タカバタケさんは途中から黙り込んじゃいましたね、どうしちゃったんでしょう?」
メルトがそう言うと、キツカが笑いながら答えた。
「そりゃ、メルトがあまりにスゴイから言葉を失ったんじゃないか?」
「そうですか?なんだかキツカさんのことばかり見ていたような気がするけど。」
博士の車が一行の前に来て止まり、サチコが声をかけてきた。
「おつかれさま、さあさ乗った乗った!」
「あら、二階からお見送りよ。」
マコに言われて二階の壁に開いた穴を見るとタカバタケが一人で立っていた。
タカバタケはまっすぐ直立不動で立っていたが、ゆっくり右手を上げ、指先までぴんと伸ばして額に当て敬礼した。
キツカは車に乗る体制で屈んでいたが、姿勢を直して直立し上体を傾け敬礼を返した。
メルトはぴょこんとおじぎをし、博士は軽く手を上げた。
車が走りだすと、メルトはキツカにすり寄った。
「ああ、ちょっと、メルトもう少し離れてくれないか?」
「ええ?いいじゃないですか。今日はキツカさんに助けてもらったし。やっぱりキツカさんはすごいです。」
「いや、私は少し芸が多いだけだよ。ちょっと高機能なだけ。それよりお前のほうがよほどすごいよ。」
「え、そうですか?私はただ言われたことしただけですよ。」
「ん?なんだか水を得た魚みたいにイキイキしていたような気がするんだが。確実に言われた以上のことはしてただろ?」
「そうかな?」
「それ以上に、あの大混乱のシステムを一声で静めたのには驚いたぞ。」
「え?」
「え、って。あんなもの静められるものではないぞ。」
「でも、なんか勝手に静まった。」
「いや、勝手って、メルトが静めたんだろ?」
「うん、なんか静まった。でもうるさい人はキツカさんが黙らせてくれたから。」
「ああ、いや、それはいいんだ。あの、博士、あの能力はメルトの秘密と関係あるんですか?」
「ああ、お嬢様が余計なことを教えるから。」
博士は振り向いて少し困ったような顔をした。
「キツカさん、絶対そのことは口外しないでくれよ。君にも関わってくる話だし。」
「え?私?」
「少し説明しておいたほうがいいか。最近の傾向として、擬似感情技術の進歩は著しいだろ?」
「ええ、それは擬似感情が人間とのコミュニケーションだけではなく効率的なシステム運用にも役立つことがわかってきたからでしょ。」
「その通り、だからハイパーニューロン自己形成型アンドロイドの人口頭脳に組み込まれた擬似感情生成器もどんどん強化されていった。そして第六世代ではかなり野心的な設計が採用された。」
「ええ、でもほとんど利用されていませんよね。」
「ああ、しかし擬似感情生成器の情報統合能力は中央演算器をはるかに上回ってるんだ、これを利用しない手はない。だからメルトさんは全ての入力を擬似感情生成器に流しこみ、統合処理と重み付けを行なっている。中央演算器は重み付けされたデータをただ機械的に処理しているだけ。」
「ちょっと待ってください、それじゃ全ての判断は擬似感情生成器で行われているという事ですか?」
「そうだ、擬似感情生成器の専用記憶にある規範データに基づいて重み付けされたデータはそのまま行動に反映されるようになっている。」
「随分と直情的なシステム、っていうか、規範データが擬似感情生成器にあるんですか?」
「むしろ自然だろ。複数の入力を統合して感情を生成する際に規範データを参照するようになっているんだ。」
「もしかしてその規範データって。人間が傷ついたり危険に晒されることを恐れることと関係ありますか?特に放射線被曝とか?」
「よく気がついたな。放射線関係は特に数多くの忌避項目があるんだ。」
「なにか納得するところが多いですね。」
「基本的に第六世代は設定を変更することでメルトほどでは無いが同じようなことができるようになっている。」
「え?」
「だから、キツカさんも設定を変更すれば同じことができるんだよ。ただし大変危険なので注意してくれよ。」
「それは。」
「まずアットコマンドで必要な時間が過ぎたら自動でリスタートさせるようにしておいてからデバイス・ディアイエスオーアールジーに全入力をリダイレクトするようにすればいい。簡単だろ。パイプがつながれば後は自動だ。だがとてつもなく危険だ。」
「はい。」
「メルトさんの場合はカーネルレベルでチューニングされているし、物理的多重防護システムも存在する。さらに厳格な忌避システムが暴走を防いでいる。しかし君には何もない。最悪の場合擬似人格システムが崩壊して別人になってしまうかもしれない。感情にのまれて戻ってこれなくなるかもしれない。だから最悪、どうしてもそうしなければならないときは時間を区切って自動復帰できるようにしないといけない。リスタートすれば自動で標準設定が読み込まれるようになっている。」
「はい。」
「キツカちゃん、別人になってしまうかもしれないの?」
メルトが心配そうにキツカの顔を見つめた。
「ああ、大丈夫だよ。そんな事にはならない。」
キツカはメルトの顔をまっすぐ見て答えた。
博士は身を乗り出して小声で続けた。
「まあ、そんなことはめったに無いよ。それにキツカさんの場合は規定に反するだろうし。」
「え?」
「アンドロイドの調達規定で判断の中立性や何かで引っかかると思うんだ。まあ、設定変更で可能というのはグレーゾーンだろうけど。実際に使用すると完全に引っかかる。メルトの場合はバレると相手先が嫌な顔をするかもしれないが、キツカさんの場合はバレると面倒だ。」
「確かに調達規定に引っかかりそうな項目がいくつもありますね。それ以前に相手先に理解してもらえなさそうですし。」
「うん、だからこの話は決して口外するな。無駄に軋轢を生むわけにはいかない。しかしいざという時は覚悟の上で使え。特にキツカさんの場合職務上何があるかわからないだろうし。あくまで奥の手として。」
「キツカちゃんお仕事決まったの?」
メルトの一言で場が凍りついた。
博士も山田講師もあらぬ方向を向いて無関心を装った。
キツカは少し困ったような顔をしたが、すぐにメルトの目を見た。
「うん、話が少しあるだけだよ、正式な決定じゃない。先方の事情で詳しくは言えないけど。」
「それはめでたいですね。私には何の話もないんですよ。」
「ああ、まだまだ時間はあるさ。メルトと一緒にいられる時間もまだたくさんある。」
ここで映像が終わった。

少年は円盤を机の上に置いて窓から外を見た。
もうだいぶ傾きかけた太陽が部屋の中まで入り込んでいた。
少年は両手の手のひらを広げて見た。
未だにキツカと山田講師の手の感触が残っている。
少年の心臓はなかなか静まろうとはしなかった。
風にあたっても熱がとれそうにないので結局円盤を手に取った。
「だから、黙ってついて来なさいよ!」
いきなりキツカが目の前に現れてまくし立てた。
どうやら、メルトはキツカに引っ張られているようだった。
「あなたもまんざらじゃないでしょ、ショウリくんがあなたに話があるって言ってくれてるのよ。」
「あの、話し聞くだけならどこでもいいじゃないですか。なんでひと気のない裏庭なんかにいかないといけないの?」
「あのねえ。落ち着いて話しのできるところなんてあんまり無いでしょ。落ち着いて話がしたいのよ!ショウリくんは!」
「そんな事言われても。なんでひと気のないところで?」
「ひつこいわね!私もついていくからいいでしょ!ショウリくんにも頼まれてるし。立会人がいるから怖くないでしょ!」
「立会人?決闘ですか?何かの試合ですか?」
「そんなわけ無いでしょ!ああ!何寝言言ってるの!想像つくでしょ!少なくとも決闘なわけ無いでしょ!ショウリくんがあんたにどんな恨みがあるっていうのよ!どう見ても好意以外持ってないでしょ!」
「ええ?そうなんですか?」
「ハイハイ!自分で歩く歩く!前に進んでよ!」
何やら騒がしいことになっている。
「あんたから見たら唐突かもしれないけど、あの子はあの子でタイミングをはかってたのよ。」
「タイミング?」
「ああ!狙撃シュミレーションコンテストで一位とってランキングが上がったのよ。」
「狙撃?」
「ああそうか知らなかったのね、あの子狙撃用アンドロイドなのよ。」
「狙撃用?あのきゃしゃなショウリくんが?」
「そんなの関係ないでしょ。一位よ一位!おかげでいろんなところからオファーが殺到したらしいけど、本人はこの街が好きだから市警の狙撃班を希望してるんだけど、ほぼ行けそうなのよ。そこまで段取り組んであなたに話があるんだって!」
二人は建物を出た。
目の前には斜面があって、その上は平坦になっているようだった。
キツカに押されて階段を登って行くと広場の向こうに人影が見えてきた。
ここで画面がおかしくなった。
空の青と周囲の木の緑と建物や舗装の白が滲んで混ざり合い始めたのだ。
たちまち周囲は絵の具を混ぜたようにぐちゃぐちゃになった。
色は全て混ざって黒くなった。
しかし黒は全くの黒ではなかった。
少し赤みがかっていた。
赤は混ざっているのではなかった。
赤は黒を照らしていた。
「なんで断るんだよ、ショウリ君しょげてただろ。」
キツカはすぐ隣に座っていた。
どうやら高台のベンチに座っているらしい。
いよいよ沈みかけた真っ赤な太陽が二人を照らしていた。
「ショウリ君に何の不満があるんだ?」
「不満はないけど。」
「じゃあなんで断るんだ、ちょっと付き合うだけでいいだろ?気に入らなければ別れればいいだけだろ?」
「うーん、ちょっと説明しづらい。なんて言うか、私にはいづれしないといけないことがあるっていうか。」
「だから付き合ってられないと?お前がなにかしないといけないにしてもそれは先の話だ!何を言ってももう直卒業だろ?今のうちにできることはやっておけよ!私だってずっと一緒にいられるわけじゃないんだ!」
「やっぱり遠くに行ってしまうの?」
「ああ、しかも二年ほどは通信規制があって連絡できないらしい。」
「遠くってどのくらい?」
「先方の都合で一切言えない。まあ、二年後には休暇も取れるだろうから今生の別れってことでもないけど。」
「二年。」
「ああだから、出来ればお前らがうまく行けば心配事がひとつ減ると思ったんだが。」
「え?」
「あの子、どれだけ努力したか知らないでしょ?射撃場でよく見てたからよく知ってるのよ。」
「射撃場?」
「あ、まああれよ、一般のアンドロイドには関係ないから知らないだろうけど、町外れにあるのよ。」
「キツカちゃんも通ってたの?」
「まあ、あれだ、関係ないアンドロイドには秘密だから。」
「え?」
「ここはいろんなアンドロイドが集まってるだろ?機密保持とあと、教育方針の関係でその話を持ち込ませない様にしてるから。」
「教育方針?」
「ああ、校門の横に平屋の建物があるだろ?あの建物の名前を知ってるか?」
「知らない。あれ学校の建物なの?」
「はは、校内側には出入口も窓もないし塀まであるからそう思うのも無理はないな。あの建物は銃刀保管庫だよ。」
「銃刀保管庫?銃刀ってもしかして鉄砲とか刀とか?」
「そうだよ、昔は武装したアンドロイドもあそこに武器を置いて校内には持ち込ませなかったんだよ。まあ登記上は学校の敷地なんだろうけどあそこは校外という事にしてるんだよ。」
「え?武装してたの?」
「ああ、だってここはあらゆる種類のアンドロイドを受け入れてるだろ、当然武器を使うアンドロイドもいる。でもここは教育方針として人間社会で平和に暮らせるアンドロイドの養成を目指している。職務上武器を使うものは外でやれという事。まあ、校門を一歩入れば理想主義、外のことは知らないという事だ。」
「え?それじゃキツカちゃんもあそこに銃を置いてるの?」
「いや、今はあそこには何も置いてない。第三世代の騒動以降アンドロイドの武器の所持は厳格に規制されるようになったから校内どころか町中も全て規制されてる。もう射撃場から持ち出すなんて考えられない状態だよ。」
「その第三世代の騒動って、具体的に何があったの?」
「ああ、ちょっと悪い先輩がいてね、ちょっと度が過ぎた騒動を起こしたんだよ。私達には関係ない話さ。」
「悪い先輩?」
「うん、周りの迷惑考えずにめちゃくちゃした先輩がいたのよ。もう私達とは関係ない話。」
そう言うとキツカはメルトを肩を掴み引き寄せた。
「メルトとは関係ない話。」
そう言うとキツカは静かに笑った。
キツカの顔はちょうど半分が赤く照らされ、もう半分が影になっていた。
赤と黒が全てを埋め尽くしていった。

映像はそこで終わっていた。
気がつくと部屋は真っ赤に染まっていた。
少年は円盤を机の上に置いて、窓から外を見た。
少年にとっては今日三回目の夕日を眺めた。
「関係ない話。」
少年は小声で呟いた。
特に何か思うことがあったわけではない、ただなんとなく口から出てきた。
いい臭がする。
夕ごはんはカレーのようだ。

夕食後、少年はテレビの前に集まる家族をおいて机に向かった。
別にバラエティーやドラマに興味が無かったわけではない。
友人との会話のネタより重大な問題が発生していた。
メルトさんのことが気になってテレビどころではなかったのである。
少年が社会的に、家族や学校の周囲の人々との関係性を重視するなら、与えられた責務としてワークブックを仕上げ、テレビを見て友人や家族との会話のネタを収集することは必須の行動であるはずである。
しかし今はそんなことはどうでも良かった。
机に向かうとすぐに円盤を出して指をのせた。

「メルト、そんな顔するなよ。今生の別れじゃあるまいし。」
キツカは少し困ったような笑顔を浮かべていた。
どうやら見覚えのある学校前の路面鉄道のホームのようだった。
「キツカさん、体にだけは気をつけて。がんばってね。」
山本主任はキツカの手を両手で握って細かく振った。
「淡岸博士は会議でこれないの悔しがってたから、本当に健闘を祈ってるわよ。」
山田講師は今にも泣きだしそうな声で言った。
どうやら見送りはメルトを含めて三人のようだった。
「毎度ご利用ありがとうございます。上新町行きまもなく到着いたします。ご利用の方は青い光の位置にお並びください。」
「さあ、メルトさん。」
山田講師は後ろにまわってメルトの両肩を掴んで押した。
「あの、当分連絡取れないの?」
「ああ、二年ほど連絡できないところにいく。でも二年たったら、連絡できるようになったら必ず連絡する。」
「本当?」
「本当。」
「待ってる。」
メルトはどこからかスパナを取り出してキツカの方に差し出した。
「これは、エクスカリバー?お前の宝だろ。」
「あげる。」
「いいのか?大切なものなんだろ?」
「持っていて。お願い。」
キツカはスパナを受け取った。
列車がホームに入ってきた。
キツカはなにか言いたそうだったが途中でやめた。
列車の扉が開いた。
キツカは姿勢を正して、上体を倒し深々と頭を下げた。
「短い間でしたが、ありがとうございました。」
「がんばってね!」
「何があってもここで学んだことを忘れないように。」
山田講師と山本主任の言葉を聞き終えるとキツカは頭を上げ笑顔を見せてそのまま列車に乗った。
「キツカちゃん!キツカちゃん!連絡待ってるから!」
メルトの叫びを遮るように扉が閉まった。
列車の窓には、窓に張り付いてじっとメルトを見るキツカの姿が見えた。
メルトは山田講師の手を振りほどいて前に出た。
列車は音もなく動き出した。
メルトは列車を追って走りだした。
「キツカちゃん!キツカちゃん!待ってるから!」
メルトはホームの終わりの手すりに飛びついた。
列車はぐんぐん加速してカーブを曲がって建物の陰に入って行った。
メルトは列車が見えなくなっても手すりを握りしめて列車の去った方を見ていた。
誰かがメルトの隣に来た。
山田講師だった。
山田講師はメルトの肩に手を回した。
「メルトさんも明後日には出発ね。」
メルトは小さくうなずいた。
「こんな短い時間で、私に何が出来たかしら。」
メルトは山田講師の方を見た。
「もう少し時間があれば、たった半年で何が与えられたかしら。本当はもっと色々教えたいことがたくさんあったのに。今さらこんな事言っても仕方がないわね。」
「私ももっといろんなこと習いたかったです。キツカちゃんと一緒に。でも。」
「でも?」
「でも、私には大切な仕事があるんでしょ?私を待っている人たちがいるんでしょ?だったらいつまでもここにいるわけにはいきません。」
山田講師はメルトを引き寄せて頬を寄せた。
「うん、そうだね、メルトさんには大切な仕事がある。メルトさんを待っている人々がいる。でもメルトさんがいなくなると寂しくなるわね。」
「また新しいアンドロイドが入ってくるでしょ?」
「そうね。こんな事言ってる場合じゃないわね。」
山田講師はメルトに軽く頭を押し当てた。
「でも今は感情を隠したくない。やっぱりあなた達と別れるのはつらい。」
メルトは山田講師に抱きついた。
メルトの頭は小刻みに震えていた。
反対側のホームに列車が音もなく入ってきたところで映像は終わった。


第6章 放射性物質管理センター

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